FSx for NetApp ONTAP の管理エンドポイントはどこに作られるのか?
コーヒーが好きな emi です。
FSx for NetApp ONTAP の管理エンドポイントは指定した IP アドレス範囲に自動作成されるのですが、いろいろとパターンがありましたので検証して図解しました。
構築の際は VPC CIDR の設計に気を付けてください。
まとめ
シングル AZ の場合
- 管理エンドポイントは FSx for NetApp ONTAP ファイスシステムと同じサブネット内に自動で作成される
マルチ AZ の場合
プライマリ CIDR のみの場合
パターン | VPC から未割り当ての IP アドレス範囲 | VPC 外のフローティング IP アドレス範囲 | IP アドレス範囲を入力 |
---|---|---|---|
VPC 内にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在し、かつ VPC のプライマリ CIDR 範囲の最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が空いている場合 | VPC のプライマリ CIDR 範囲から最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が自動指定される | 198.19.x.0/24 が自動指定される | VPC の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できる ※制限あり |
VPC 内にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在し、かつ VPC のプライマリ CIDR 範囲の最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が空いていない場合 | ×(選択できない) | 198.19.x.0/24 が自動指定される | VPC の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できる ※制限あり |
VPC 内の IP アドレスがすべてサブネットに割り当てられており、空き IP アドレスが存在しない場合 | ×(選択できない) | 198.19.x.0/24 が自動指定される | VPC 外の IP アドレス範囲から指定できる ※制限あり |
セカンダリ CIDR がある場合
パターン | VPC から未割り当ての IP アドレス範囲 | VPC 外のフローティング IP アドレス範囲 | IP アドレス範囲を入力 |
---|---|---|---|
セカンダリ CIDR にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在する場合 | ×(選択できない) | 198.19.x.0/24 が自動指定される | セカンダリ CIDR の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できる ※制限あり |
VPC 内の IP アドレスがすべてサブネットに割り当てられており、空き IP アドレスが存在しない場合 | ×(選択できない) | 198.19.x.0/24 が自動指定される | VPC 外の IP アドレス範囲から指定できる ※制限あり |
※制限:次の CIDR 範囲は FSx for NetApp ONTAP と互換性がないため指定できません。
- 0.0.0.0/8
- 127.0.0.0/8
- 198.19.0.0/20
- 224.0.0.0/4
- 240.0.0.0/4
- 255.255.255.255/32
背景
FSx for NetApp ONTAP の管理エンドポイントは以下の二種類があります。
- ファイルシステムの管理エンドポイント
- SVM の管理エンドポイント
本記事ではこの二種類をまとめて「管理エンドポイント」と表記します。
管理エンドポイントは、ファイルシステム作成の際に設定する「エンドポイント IP アドレス範囲」から自動で割り当てられます。
FSx for NetApp ONTAP には他にも「ファイルシステムのクラスター間エンドポイント」、「SVM の iSCSI エンドポイント」が登場します。ファイルシステム作成の際に設定する「エンドポイント IP アドレス範囲」は、管理エンドポイントを作成する IP アドレス範囲を指します。
曖昧さを回避するため、本記事ではファイルシステム作成の際に設定する「エンドポイント IP アドレス範囲」のことを、「管理エンドポイント IP アドレス範囲」と表記します。
ファイルシステムのクラスター間エンドポイント、SVM の iSCSI エンドポイントはサブネットの中に作成されますが、管理エンドポイントが作成される場所には様々なパターンが存在します。
「管理エンドポイント IP アドレス範囲」で選択できる 3 種類のオプション
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、以下 3 種類のオプションから選択できます。
- VPC から未割り当ての IP アドレス範囲
- VPC 外のフローティング IP アドレス範囲
- IP アドレス範囲を入力
一つずつ見ていきます。
VPC から未割り当ての IP アドレス範囲
VPC のプライマリ CIDR 範囲から最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が自動指定されるオプションです。例えば VPC の CIDR が「10.0.0.0/16」の場合、管理用エンドポイント IP アドレス範囲は「10.0.255.255/26」となります。
VPC のプライマリ CIDR 範囲から最後の 64 個の IP アドレスが既にサブネットに割り当てられている場合、このオプションを選択することはできません。
VPC の中からランダムでいい感じに空いている IP を選んでくれるわけではない、というところが注意点です。
VPC 外のフローティング IP アドレス範囲
198.19.x.0/24 が自動指定されるオプションです。
VPC 外の IP アドレス範囲がランダム指定されるわけではありません。
IP アドレス範囲を入力
「VPC の空き IP アドレス範囲」、「VPC 外の IP アドレス範囲」のいずれかから IP アドレス範囲を指定できるオプションです。VPC の空き IP アドレス範囲を指定することも、VPC 外の IP アドレス範囲を指定することもできます。
ただし制限があり、次の CIDR 範囲は FSx for NetApp ONTAP と互換性がないため指定できません。
- 0.0.0.0/8
- 127.0.0.0/8
- 198.19.0.0/20
- 224.0.0.0/4
- 240.0.0.0/4
- 255.255.255.255/32
ちなみに「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」は 198.19.x.0/24 が自動指定されるオプションですが、上記 198.19.0.0/20(198.19.0.0~198.19.15.255)の範囲は外して指定されるようです。試しに「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」オプションを指定して作成したところ、「198.19.255.0/24」が自動指定されていました。
検証と図解
1. シングル AZ 構成の場合
管理エンドポイントは FSx for NetApp ONTAP ファイスシステムと同じサブネット内に自動で作成されます。
シングル AZ 構成を選択すると、管理エンドポイント IP アドレス範囲を指定するオプションが表示されません。
以下のブログでシングル AZ 構成の FSx for NetApp ONTAP を構築しています。
2. マルチ AZ 構成 - VPC 内にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在し、かつ VPC のプライマリ CIDR 範囲の最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が空いている場合
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、オプションごとに以下のようになります。
- オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」
- VPC のプライマリ CIDR 範囲から最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が自動指定されます。
- 例えば VPC の CIDR が「10.0.0.0/16」の場合、管理用エンドポイント IP アドレス範囲は「10.0.255.255/26」となります。
- オプション「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」を選択する
- 198.19.x.0/24 が自動指定されます。
- オプション「IP アドレス範囲を入力」
- VPC の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できます。※制限あり
以下のブログで、このパターンのマルチ AZ 構成 FSx for NetApp ONTAP を構築しています。
複数の FSx for NetApp ONTAP ファイルシステムを作成する際、繰り返し「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」を選択すると、複数のファイルシステムで管理エンドポイントの IP アドレス範囲が共有されます。
3. マルチ AZ 構成 - VPC 内にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在し、かつ VPC のプライマリ CIDR 範囲の最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が空いていない場合
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、オプションごとに以下のようになります。
- オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」
- このオプションは選択できません。
- オプション「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」を選択する
- 198.19.x.0/24 が自動指定されます。
- オプション「IP アドレス範囲を入力」
- VPC の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できます。※制限あり
VPC のプライマリ CIDR 範囲の最後の 64 個の IP アドレス(xx.xx.xx.xx/26)が空いていない場合、オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」は以下のようにグレーアウトになります。
このまま進めるとエラーになります。
The EndpointIpAddressRange provided overlaps with CIDR block range for subnets: subnet-041ce50239f94dc42.
(提供された EndpointIpAddressRange は、サブネットの CIDR ブロック範囲と重複しています)
4. マルチ AZ 構成 - VPC 内の IP アドレスがすべてサブネットに割り当てられており、空き IP アドレスが存在しない場合
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、オプションごとに以下のようになります。
- オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」
- このオプションは選択できません。
- オプション「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」を選択する
- 198.19.x.0/24 が自動指定されます。
- オプション「IP アドレス範囲を入力」
- VPC 外の IP アドレス範囲から指定できます。※制限あり
5. マルチ AZ 構成 - VPC に CIDR が二つ以上ある場合(セカンダリ CIDR が設定されている場合)
5-1. セカンダリ CIDR にサブネットに割り当てられていない空き IP アドレス範囲が存在する場合
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、オプションごとに以下のようになります。
- オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」
- このオプションは選択できません。
- オプション「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」を選択する
- 198.19.x.0/24 が自動指定されます。
- オプション「IP アドレス範囲を入力」
- セカンダリ CIDR の空き IP アドレス範囲、VPC 外の IP アドレス範囲のいずれかから指定できます。※制限あり
上の図の場合、セカンダリ CIDR 10.1.0.0/22 にサブネットは割り当てられておらず空いているので、管理エンドポイント IP アドレス範囲として「10.1.0.0/22」や「10.1.1.0/24」などを指定することができます。VPC 外の IP も指定できます。
5-2. セカンダリ CIDR の IP アドレスがすべてサブネットに割り当てられており、空き IP アドレスが存在しない場合
「4. マルチ AZ 構成 - VPC 内の IP アドレスがすべてサブネットに割り当てられており、空き IP アドレスが存在しない場合」と同様です。
管理エンドポイント IP アドレス範囲は、オプションごとに以下のようになります。
- オプション「VPC から未割り当ての IP アドレス範囲」
- このオプションは選択できません。
- オプション「VPC 外のフローティング IP アドレス範囲」を選択する
- 198.19.x.0/24 が自動指定されます。
- オプション「IP アドレス範囲を入力」
- VPC 外の IP アドレス範囲から指定できます。※制限あり
おわりに
FSx for NetApp ONTAP の管理エンドポイントがどこに作られるのか、検証して図解してきました。
マルチ AZ 構成で FSx for NetApp ONTAP を作成する際は「どこからアクセスするのか」、「どのサービスと通信をするのか」などの通信経路設計を綿密に実施し、適切な管理 IP アドレス範囲を指定するようにしましょう。
VPC 外の IP アドレス範囲を指定する場合は Transit Gateway や NLB が必要になるケースがありますのでご注意ください。詳細は以下ブログをご参照ください。